包丁を手に、漂流の旅をゆく: 都蘭山居、スローフードと魂の記録
『菜刀を携えて流離う:都蘭山居、スローフードと魂の記録』
【内容紹介】 『菜刀を携えて流離う』――それは、作家であり料理人でもある男が綴った、スロークッキングによる素材本来の味わいをめぐる紀行であり、社会運動の最前線から山林の厨房へと身を投じ、いのちの救済を模索した記録にほかならない。本書は単なる美食の書ではない。ベテランのドキュメンタリー監督である江冠明が、台湾・台東の都蘭の山林へと身を放り出し、自ら選んだ孤独の中で過ごした十年の歳月を通じて書き上げた、生活のドキュメントであり実存的な哲学の書である。
第一部:菜刀の宣言――流亡から定住へ 書名にある「菜刀(包丁)」とは、著者が「労働によって自己を定め、その土地の恵みをそのままいただく」という誠実な生き様を映し出す鏡にほかならない。人生の最も劇的な転換点において、江冠明は台北を突如として後にした。退職金も蓄えもなく、ただ覚悟だけを胸に、台東・都蘭の地で途中下車したのである。荒れ地を開墾し、一食一食に魂を込めながら生活を立て直していく決意が、本書には詳細に綴られている。
第二部:PASA厨房の「スロー」哲学と伝説の料理 本書は、独自の「スローフード文化」を軸に展開していく。その核心にあるのが「漫滋慢味(ゆっくりと味わい、深く染み入る)」という思想である。型に嵌まらない独自の「野流(ノウハウに囚われない独学のスタイル)」から生まれた、数々の独創的な皿が記されている。
土地の記憶を纏うリゾット:スペインの硬質米の代わりに、小粒パスタや地蛤を用いて仕立てた海鮮リゾット。
意表を突くオムレツ:幾重にも具材を重ね合わせ、オーブンでじっくりと低温焼きにした変奏オムレツ。
伝説の低温ロースト:三時間をかけて炭火でじっくりと焼き上げた、食通たちが絶賛する伝説の豚足。
第三部:救済と帰属――荒涼のなかでの回顧 評論家の孫大川が指摘するように、江冠明の創作の核は常に「書くこと」にあり、料理とは彼にとって今日の生命を書き留めるための器にすぎない。本書の最大の価値は、現代人が抱える荒涼とした空虚さを赤裸々に描き出している点にある。それは、現代社会の喧騒に対する静かな抵抗であり、自らの存在価値を問い直す旅にほかならない。
立ち止まり、ゆっくりとした「漫慢」の時間を慈しみ、この一振りの包丁がいかにして彼をより自然の温もりに満ちた帰属と自由へと導いていったのか――その魂の記録を、ぜひ本書でお確かめください。
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